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小沼

ベドウィンの人たちも1日に5回、
メッカのほうに向かってお祈りするんですか?

𠮷竹

します。
とはいえ、熱心な人もいれば不熱心な人もいます(笑)。

小沼

やっぱりいろいろなんですね。

𠮷竹

たとえば、おとうさんの兄であるサーエルは
ものすごく敬虔で、
1日5回、どこでなにをしていても必ずお祈りします。
もちろん女性とは握手しません。
女性に触れてはいけないので、
握手をするとしても本当にほわっと、
触れるか触れないかくらい。
一方、そういうことをまったく気にしない人もいます。
ベドウィンは100パーセント、イスラム教徒ですけれども、
敬虔さの度合いはやっぱりいろいろですね。
わたしはイスラム教徒ではありませんが、
沙漠に入るときには髪の毛を隠して、長袖を着て、
ズボンを履いているとお尻が見えるので
お尻が隠れる長い服を上から着てました。

小沼

敬虔な人はメッカに巡礼するようなこともあるんですか?

𠮷竹

たまに行ってますね。

小沼

そんなに遠くないのかな?

𠮷竹

バスで行くと言ってました。
48時間以上だったかな?
けっこうかかるみたいです。
彼らは写真入りの身分証は持ってるんですけど、
パスポートは持っていないんです。
だから飛行機には乗れないはずなんですよ。

小沼

地続きだとパスポートがなくても国境を超えられるんですね。
「メッカに行くならいいよ」みたいな感じなのかなぁ?

𠮷竹

うーん、どうなんでしょうね。
詳しいことはわからないんですけど。

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小沼

さっきのお金の話ですが、
彼らはアッラーの恵みのもとで生活しながら、
一応、貨幣経済というものにかかわっているわけですね。

𠮷竹

そうですね。
そして彼らの経済はやはり天候にものすごく左右されます。
雨が降らなくて羊のエサがないと
おかあさん羊は子どもを少ししか産まないし、
産んでもおっぱいをあげられるほど母体が太れないので、
赤ちゃん羊はすぐに死んでしまう。
もちろん雨が降ればその逆。
すごくリッチな年もあれば、貧しい年もあります。

小沼

羊は一頭、どのくらいで売れますか?

𠮷竹

わたしが行っていたころは米ドルで100ドルほどですね。
だから400頭くらい持っていると、とってもリッチなんです。
現金をたくさん持っているようなものなので。
それから出稼ぎに行く人もいます。
サウジアラビアやトルコに行って、
トラックの運転手だとか、ラクダの放牧だとか。
あと、これは仕事とはちょっと違いますが、
青年には兵役の義務もありますね。
昔は30カ月だったんですけど、今は1年半くらい。
その間は沙漠を離れます。

小沼

そういった都会への出稼ぎや兵役があっても、
彼らにとってはベドウィンとしての生活というものが
大切なんですよね?
なにが言いたいかというと、
日本人が生活や暮らしについて考えるとき、
地方に住むよりも都市に住む、
そこでサラリーマンをする・・・という方向に考えるほうが
少なくない。
でもベドウィンの人たちはそうではなくて、
都市部に行っても兵役に行っても、それは
「ちょっと仕事をしてくる」「1年半だけ行ってくる」
ということであって、
拠点はあくまで沙漠であり、
ベドウィンとしての暮らしなのか、と。

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𠮷竹

そうですね・・・なかには沙漠での生活を嫌ったり、
都市での出稼ぎを経験して
「沙漠は衛生的でない」と言い出す人もいます。
定住化政策の影響で伝統的な遊牧生活をするベドウィンが
どんどん減っているのも事実です。
それでも、たとえば、
わたしがずっとお世話になっていた娘さんは
街の人と結婚して、車も家もある
不自由のない暮らしにもかかわらず、
沙漠が好きで、離婚して戻ってきましたね。
まぁ、ご主人がちょっと暴力的ということも
あったとは思うんですけど。
で、実家でしばらく過ごしたのち、
ある親戚の第二夫人として
サウジアラビアのほうにお嫁に行きました。

小沼

やはり数としては減ってはいるんですね。

𠮷竹

残念ながら。
ちなみにベドウィンの結婚は必ず同じ部族同士で、
なかでも、いとこ結婚が多いんです。
わたしの写真集はベドウィンのひとつの家族を
撮り続けたものなんですが・・・・・・。

小沼

"Story of a family"ですものね。

𠮷竹

はい。
それで写真集の最後に家系図を入れたんですよ。

小沼

これ、すごいですよね。

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𠮷竹

178人分です。
まぁ、会ったことがない人もいます。
わたしが最初に行った1985年の時点で
すでにサウジアラビアに住んでいた人たちだとか。
これ、4世代分なので
4つに割って書くはずだったんですけど、
まず一夫多妻制の書き方がわからないし、
いとこ結婚の家系図の書き方もわからない。
さらに真ん中の世代があまりに多くて書き切れず、
苦肉の策なんです。

小沼

「交叉いとこ婚」とかって、
文化人類学でやるような記号が
たしか、あるはずなんですよね。

𠮷竹

そうなんですか。
数年前に岡山のオリエント美術館で写真展をしたときは、
学芸員の方が顔写真付きの家系図を作ってくださったんです。
1世代だけだったんですけど、おもしろかった。
できればこれもそうしたかったんですが、
出版物となると顔出しはちょっと問題があるかなと思って。

小沼

「個人情報」だし。

𠮷竹

それで名前だけにして。
イスラム教徒はもともと世襲の姓に該当するものはないのと
同じ名前の人がたくさんいるのとで、
名前くらいはまぁいいかと。

小沼

𠮷竹さんは彼らの結婚式やお葬式などにも
参加されたんですか?

𠮷竹

実はひとつだけ心残りなのが、
結婚式に出る機会がなくて
写真を撮れなかったことなんです。
結婚が決まっても、わたしへの連絡手段がないんですよ。

小沼

沙漠に電話するわけにもいかないですしね。

𠮷竹

ええ。
最後の2年くらいは
若い世代が携帯を持ち始めていたんですけど、
それでもせめて2週間前には言ってもらわないと
ビザがとれない(苦笑)。
彼らの結婚式ってけっこう急に決まるんです。

小沼

「やることになったから」って(笑)。

𠮷竹

だから結局、結婚式には出られませんでした。
お葬式については
街のほうではやってるのかもしれませんが、
ベドウィンはたぶんやらないんだと思います。

小沼

葬儀の仕方は土地土地でいろいろありますよね。
沙漠では風葬だったりもするのでしょうか?

𠮷竹

土葬です。
この本にもお墓の写真が載ってますが、
あれはちゃんとしているほう。
たいていは「このへんに埋まってるよ」という
漠然とした感じでしかないんですよ。

小沼

じゃあ、しばらくたつと散っちゃうわけですね?

𠮷竹

散っちゃいます。
「このへんにいるんじゃない?」くらいになっちゃう。
一応、頭をメッカのほうに向けて埋葬するんですけど、
なきがらに対しては、魂のないからっぽの容れものというか。
なんの思い入れもないようですね。

小沼

いずれ復活するし。

𠮷竹

そうそう(笑)。
なので結婚式やお葬式には出ていないんですが、
イベントということだと
割礼の写真は撮らせてもらってます。

小沼

載ってましたねぇ。

𠮷竹

撮っちゃダメと言われることがなかったんですよ。
出産の場面はさすがに撮るのを控えて
生まれた直後に撮らせてもらったんですけどね。

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小沼

本当に隅々まで撮られてますよね。
彼らの暮らしぶりがよくわかります。

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ときにはこんなふうにおめかし。紅茶を飲みながら、ガールズトーク中?
2011年撮影。(C)Megumi Yoshitake

<次回に続きます>


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