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𠮷竹

食べものの話に戻ると、
シリア、とくにトルコとの国境に近いアレッポは、
「中東の食いだおれ」といわれるくらい
美味しいものが集まる国なんです。
とくに羊が美味しい! 
シリアは人口と同じくらい羊がいて、
日本で食べる羊とはまったく違うんです。

小沼

羊といえば、河野さん、北海道でしたよね?(註1)

𠮷竹

そうですか! 北海道の羊って、羊毛種ですよね?

小沼

そこは詳しくないので・・・・・・どうなんでしょう?

(註1:北海道で羊肉はとてもポピュラーで、
明治時代から肉用を含めた綿羊の飼育が行われていたようです。
ただ、当初はやはり衣服用の羊毛自給が目的で、その後、
毛だけでなく肉も食そうという流れの中でジンギスカンが登場。
ジンギスカンが一般に普及したのは
第二次世界大戦後と言われているそうです。by 道産子の編集担当・河野)

𠮷竹

シリアの羊は、乳と肉をとるための食用種なんです。
羊の家畜化はシリアを含む西アジアを中心に
1万年前から始まったと言われていて、
アワシという1種類しかないんですよ。
尻尾が特徴的で、脂尾(しび)と呼ばれ、
脂肪がたっぷりたまってます。

小沼

へぇーー。

𠮷竹

歩くと左右にフルフル揺れて。
良質な脂肪なので、そのままラードとして使ったり、
ひき肉に混ぜたりします。
それから、シリアの羊はくさみがほとんどないんです。

小沼

そうなんですか!? 
日本人の多くが「羊はくさい」というイメージを
持ってるわけですけど、そうじゃないんですね。

𠮷竹

肉はくさくないんです。
逆に、毛がくさい。
毛が1本肉にくっつくだけで
肉が全部くさくなると言われてます。
肉そのもの、とくに子羊は、ほぼ無臭ですね。
肉質もやわらか。
ただ、種の保存のために雌は屠殺と輸出が禁止なんです。
食べていいのは雄だけ。
カバブにしたり鍋にしたり、
シリアの羊は本当に美味しいですよ。

小沼

どのくらいの頻度で食べるんですか?

𠮷竹

ベドウィンにとっては基本的に換金商品なので、
特別なお祝いごとがあったときや
羊の毛を刈る重労働をしたあと、
ラマダーンの断食明けくらいですね。

この写真は羊のミルクを採っているところです。
交互に並べると、
両側からいっぺんにダーッとミルクを採れるんですよ。

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搾乳のため交互に並ぶアワシのみなさん。
2007年撮影。(C)Megumi Yoshitake

小沼

これ、はじめて見たとき、
首だけ並んでいるように見えて怖かった(苦笑)。

𠮷竹

そうですよねぇ(笑)。

小沼

村上春樹の『羊をめぐる冒険』に、
「日本にいる羊はすべて管理されているから
違う種類のヤツはいないんだ」という内容の
一節があるんですね。
でも、ここにいる羊はみんな違って見える。
世の中にはいろんな羊がいるんだな、
わたしは彼らのことは知らないな、と思いました(笑)。

𠮷竹

種類としては一種類なんですけど、
顔の色がいろいろなんです。
ちなみに羊を殺すのは男性の仕事です。
お祈りを唱えながら、首のところを。

小沼

その手順を踏まないと食べちゃいけないんですよね。

𠮷竹

そうなんです。

小沼

ミルクは美味しいですか?

𠮷竹

美味しいです。
とくに赤ちゃんを生んだばかりの
産後1~2週間くらいの初乳は、とてつもなく美味しい。
初乳を火にかけると
5分だての生クリームみたいにとろっとするんです。
で、ほのかに甘い。
これを食べることができるのはベドウィンだけなんですよね。

小沼

運んじゃったらできないもの。

𠮷竹

ええ。
それから、ミルクを羊の内臓で作った袋に入れて
3時間くらい揺すり続けると、
生のバターができます。
これも、とっても美味しい。

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羊乳のバター、ズブダ(zubda)を作っているところ。
2007年撮影。(C)Megumi Yoshitake

小沼

毛はどうしてます?

𠮷竹

毛は全然使えないんです。
栄養が肉とミルクにいっちゃうので。

小沼

あーー。

𠮷竹

洋服の裏地につけるとか、
毛をたたいて空気を入れてから布団の中綿にするとか、
それくらい。
撚ってセーターにするようなことには
まったく向いていないですね。

小沼

でもお肉は・・・・・・。

𠮷竹

美味しい(笑)。

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𠮷竹

ちなみにシリア沙漠は「砂漠」とは書かないんです。

小沼

沙漠、ですね。

𠮷竹

サラサラとした砂だけの砂漠ではなく、
岩もあれば土もあり、草も生えるので。
そして、トリュフも採れるんです。

小沼

あ、そうですか!

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𠮷竹

しかもホワイトトリュフなんですよ!
毎年採れるわけではなくて、雨の多い年だけ。
そして2月から3月の1カ月間限定。
どこにあるかもわからないので、
適当に数十カ所掘ってみて、「あった!」という感じです。

小沼

一般的にトリュフというと、ブタが探したりしますよね。
ここにはブタがいないから、
人間が探さないといけないわけだ。

𠮷竹

ブタは見たことないですね。
食べないですし。

小沼

そもそもイスラムでは、
ブタそのものがいけないんでしょうから。

𠮷竹

ホワイトトリュフ、いい香りがするんですよ。

小沼

どうやって食べるんですか?

𠮷竹

彼らは食べないんです。
換金商品なので。

小沼

ダイヤモンドみたいな。

𠮷竹

業者が集めに来るので、
ベドウィンは彼らに売り、業者は街で売るんです。
街の人たちはマッシュルームみたいに
生のままサラダに入れてますね。
それからフランス人が街に買い付けに来てます。
けっこうゴソッと買っていくようです。

小沼

ということは、フランスで食べるトリュフは、
もしかしたらシリア産だったりするかもしれない?

𠮷竹

そうかもしれません。
イラク産やイラン産も沙漠で採れるものですけど、
シリア沙漠のものは水の入り具合が一番いいと言われていて、
周辺では最も高価ですね。
とはいえ、業者がベドウィンに払うのは
わずかな金額ですけど。

小沼

たたかれて?

𠮷竹

たたかれているのか、
その先でいきなり値段が上がるのか・・・どうなんでしょうね。

小沼

ベドウィンの人たちにとっての換金商品は、
羊とトリュフ以外にもありますか?

𠮷竹

ほかにはラクダも換金商品です。
サッラールの2番目の弟が白ラクダの飼育の達人で、
ラクダレースで何度も優勝しているんですね。
家族のなかでは、ラクダの放牧をする者と
羊の放牧をする者とが分かれています。
ただ、ラクダの数は絶対的に少ないですし、
トリュフも毎年採れるわけではなく、
あくまで臨時収入的なもの。
なので、羊と羊のミルクがおもな換金商品ですね。
鶏も飼ってますけど、卵を食べるために買ってきたもので、
鶏を増やして売るわけではないですし。

小沼

で、鶏を買うお金はやっぱり羊を売って・・・。

𠮷竹

ですね。
遊牧しながら、羊で生計を立ててます。
でも「遊牧」といいつつ、
大きな移動は年に1回だけなんですよ。
冬の居住地と夏の居住地の移動だけ。

小沼

モンゴルのほうの人たちとは違うんですね。
あそこの人たちは、もう少しよく動くと思うんですけど。

𠮷竹

あ、ベドウィンも大移動は年に1回なんですけど、
移動した地域では、およそ30km圏内を
ちょこちょこ動いてますね。

小沼

羊が草を食べちゃうから。

𠮷竹

そうです。
草を根っこから食べちゃうんですね。
だから移動する。
で、羊の飼育には人工飼料も使うんですが、
基本的には草で育てるわけで、
草がよく育つには雨がたくさん降らないといけない。
そして雨がたくさん降るためには
「アッラーの恵み」が必要なんですね。

小沼

なるほど。

𠮷竹

アッラーの恵みによって雨が降り、
草がたくさん生えるとエサが豊富になるので、
子羊がたくさん生まれる。
羊も太る。
そうすると羊が市場にあふれるので、羊の値段が下がる。
羊の値段が下がると、物価全体が下がるんですね。
だから彼らは、「すべてはアッラーで繋がっている」
という考えを軸にして生きているんです。

<次回に続きます>


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