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ーー

「わたしが好きなものはこれだ!」と、わかっちゃった。

吉田

そう。

ーー

どのへんが「これだ!」だったんでしょう?

吉田

たとえば学校では「歌は大きな声で」って
教えられてきたし、
ポップスも大きな声が出たり歌唱力があったり、
華やかだったりするものが「いい」と言われるでしょう?
わたしのなかでも、
そういうものが“音楽”なんだろうというのがあった。
だから音楽をあまり聴かずにいたんだと思うんです。
大きな音やうるさいものが好きじゃないから。
それがジョアンはまるで逆で、ギターも歌声も小さい。
だから最初は「なんだろう?」と思った。
でも何度も聴いていると
だんだん音楽的なことが見えてくるわけ。
1番、2番、3番、4番と
同じフレーズをくり返し歌っているようで、
実はギターのリズムが毎回違っていることだとかね。
ジョアンの音楽はパッと聴くと地味だし、
ひとによっては聞き流してしまうような
音楽かもしれないけど、
そのなかにたくさんの豊かなものが
含まれていることを知ったときに、
うわっ!と思って。
わたしが好きな要素がすべて入ってる!と思ったんです。

ーー

ジョアンの音楽って、すごくミニマムですよね。
小さな宇宙みたい。

吉田

ジョアンのギターと歌の世界って、
そこですべて完結されてるの。
メロディーとリズムとハーモニーが
すべてその中に入ってる。
ほんっとに完璧。
ポルトガル語の響きも含めて、
わたしが美しいと思うすべてがそこに入ってるんです。
それに気づいてからはもう夢中(笑)。

ーー

完璧主義と言われますよね。
録音でもライブでも妥協を一切しないということで、
いろいろな逸話もあって。

吉田

うん、普通じゃないです(笑)。
コンサートを土壇場でキャンセルするとか、
ほんとかウソかわからないものまで
たくさんありますから。

ーー

2003年の来日公演では
ステージの上で何十分もジーッと動かなくて・・・。

吉田

感無量で30分間も黙っちゃったんですよね。
あのとき、一番前で見てたんですよ。
あんなこと普通のミュージシャンだったら
絶対にやらない。
何十分もかたまって観客の拍手を聞いてるなんて。
わたし、カエターノ・ヴェローゾも大好きで、
彼のコンサートのアンコールのときに
「もっとやってー!」って叫んだら、
彼が腕時計を指して「時間だから」って言ったんです。
そのときも一番前で見てたから、よく見えて(笑)。
あ、こういうところはジョアンと違うんだな、
カエターノは常識人なんだなって。
ジョアンは常識人ではないから。
でもそのぶんピュア。
変人だけど、とっても可愛らしいひとなんですよ。
彼のコンサートを見たり、彼の音楽を聴いたり、
彼のことが書かれている本を読んだり、
ジョアンを日本に呼んだ宮田茂樹さんから(*1)
ジョアンの話をいろいろ聞いたりしてね、
ほんとに素敵なひとだなぁって。
音楽に対する姿勢もそうだし、
彼の生きているすべてがとにかく大好きなの(笑)。

(*1)・・・MIDIレコード設立者の1人で、
2003年にジョアン・ジルベルトの初来日公演を実現させた立役者。

ーー

それにしても、ジョアンは
どうしてあんなにささやくように歌うんでしょう?

吉田

ジョアンについて書いた本に、
「愛の歌をうたってるのに、
好きなひとのための愛の歌なのに、
みんなはどうしてそんな大きな声で歌うんだい?」
・・・というようなことが書いてあったんですよ。

ーー

愛はロマンティックにささやくものではないか、と。

吉田

そうそう。

ーー

なるほど・・・。

吉田

そのとおりだなぁと思って。

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photo by tobotobosan

ーー

音楽的なセンスはもちろん、
ジョアンのそういう自分に正直なあり方も
慶子さんの27歳の転機に
ピタッとハマったみたいですね。
もともとの慶子さんの性質を目覚めさせたというか。

吉田

だと思います。
とにかくもう夢中になっちゃいましたから。

ーー

そして今度は慶子さん自身がボサノヴァを歌い始めた。

吉田

といっても、最初はほんとに鼻歌でしたよ。
ポルトガル語はよく知らないし話せない。
でも、とっても素敵。
毎日毎日聴いていたから覚えただけ。
でも、大好きな音楽を歌えることがうれしくなってきて、
ボサノヴァを教えてくれるひとや教室って
あるのかしら?と調べてみたら、
仙台のジャズ教室が教えてるというのを聞きつけて
行ってみたんです。
でも違ってた。
ジャズのフィーリングで
「こういうノリじゃなきゃダメよ」と怒られたり、
わたしが発表会用に持っていったサンバカンソンに
びっくりするようなコードをつけられちゃったり。
ブラジル音楽ってハーモニーがものすごく大事で、
間違えば演歌にもなっちゃう。
もう、がっかりしてやめちゃったんです。
ギター教室も一度のぞいてみたけど、
そうか、ボサノヴァって一般的には
こういう扱いをされてるのか・・・って。

ーー

通りいっぺんというか、
ステレオタイプなイメージだった?

吉田

そう。ボサノヴァっていうと一般的には
「ジャン、ジャン、ジャジャーン」という
ギターのリズムを基調にした音楽と思われがちですけど、
わたしにとってのボサノヴァはそれだけじゃないから。
でもジャズ教室に行ったおかげで、
そのあとずっと一緒にやることになる
田庫秀樹さんと知り合えたんです。
彼はトロンボーン奏者で、
さらにピアノとパーカッションもやるひと。
わたしの考え方も理解してくれて、しかも、
トロンボーンの音がものすご~く小さくて、
ものすご~く繊細なひとなの。
演奏もとっても美しくて。

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田庫さんと一緒に。  photo by tanakasan

ーー

なるほど、慶子さんのツボを
全部押さえたようなひとだったんですね。
で、そこからライブをやるようになっていったと。
シンガーとしてやっていきたいという気持ちが
芽生えたのは、いつごろですか?

吉田

うーん・・・そういう気持ちを持ったことは
ないかもしれない。
「シンガーになりたい」ということではなかったんです。
ライブはやっていたけど、
「ライブに出たい」というのともちょっと違ったし。
もともと歌うことが好きだったところに、
覚えたものを歌う機会ができて、
楽しいうれしいと思ってやってきた。
それが今につながっている感じなんです。
それから田庫さんがいつも
「よしんつぁんは、いい!」って、
わたしをほめてくれたのも大きくて。

ーー

よしんつぁん(笑)。

吉田

いろんなところで「声が小さい」と言われても、
田庫さんだけは
「よしんつぁんはそのままでいいんだ」と言ってくれた。
彼という味方がいたから楽しく歌ったこられたけど、
彼がいなかったら、歌うすべもなかったし、
今もやってなかったかもしれないですね。
演奏はもちろん、
田庫さんはほんとうに素敵なひとなんです。

<次回に続きます>


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