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大人も子どももホッとできる〈居場所〉づくりに乗りだした
ソーシャルワーカーでセラピストの鴻巣麻里香さんにとって
リラックスタイムに欠かせないもの。
それは愛してやまない葡萄のめぐみ、美味しいワイン。
心と身体で感じて味わう
ちょっぴりセラピューティックな麻里香流ワインの楽しみ方、
香り高きエッセイにて、お届けします。


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20171008


やさしい人だよ。褒め言葉であるはずのそれが、「よい人だけれど物足りない」というニュアンスを含むようになったのはいつからだろう。例えば男性が特段関心のない女性を「いい子だよ」と表現するように、女性が男性を「やさしい人だよ」と言うような場合。際立った長所のない、かといって不快ではない、可もなく不可もない、そんな無難な人をとりあえず褒めるために手頃な言葉として用いられている。そう感じるのは、私だけだろうか。ワインも同じかもしれない。「やさしいワイン」という解説は、手頃さと飲みやすさ以外に魅力や個性のないワインの売り文句としてよく見かける。

では、「やさしさ」とは、なんだろう。例えば荒々しさの対極にあるもの。でも時に、厳しさや強さと併用される複雑なもの。少なくとも、本来は手頃で無難で凡庸なという意味ではなかったはずだ。それがいつの間にか、凡庸な人を貶めずに表すのに手頃な言葉として、私たちの無難で角の立たない会話を手助けしてくれるようになった。そのことで「やさしさ」という言葉の価値が損なわれてしまったように感じるけれど、それもまた、この言葉の持つ寛容さや思いやり、つまり「やさしさ」という言葉のやさしさなのかもしれない。

私は、やさしいワインが好きだ。例えばこれ。

Marieta

マリエッタ。スペインではどこにでもいるありふれた女の子の名前が与えられたこのワインは、値段も手頃で誰にとっても飲みやすい、それこそやさしい味わいながら、実に艶やかで多様な個性に溢れている。つまり、私がやさしさを感じるワインは、単に飲みやすいワインのことではない。例えばカスタードクリームのようにまろやかな甘みを感じる喉越しながら、秘密の果樹園に誘われたような多種多様な香りと、それでいて潔いほどに爽やかな酸味とごくほのかな泡があるもの。このマリエッタのように。やさしさは妥協の産物ではなく、異なる魅力が対話し調和した結果の豊かさと心地よさのことなのではないか、そんな思いつきを与えてくれたワインだ。

タンニンの強い、渋すぎるほどの赤ワインをおいしいと感じていたあの頃、やさしさは私にとって凡庸さと同義だった。ワインも人も、強く、鋭く、刺々しいほどに挑発的な個性が魅力だと思っていた。たとえ自分が傷ついても。たとえ誰かを傷つけても。生きている限り避けようのない苦みや渋みがある。だったらせめて、自分が日々選ぶワインくらいはやさしく、心地よいものがいい。そんな今の私はこれからもやさしいワインを飲みたいし、やさしい人を愛したいし、やさしい人でありたいと願う。そして「やさしさ」という言葉を、本来の優れた価値のとおりに大切に使えるようになりたい。

・名称 :マリエッタ
・生産者:ボデーガス・マルティン・コダックス
・生産地:スペイン、リアス・バイシャス
・ヴィンテージ:2015
・品種 :アルバリーニョ
・価格 :1,500円前後




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