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ソーシャルワーカーでセラピストの鴻巣麻里香さんがつづる
心と身体で感じて味わう
ちょっぴりセラピューティックなワインの楽しみ方。


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20170320


白地に描かれた眩い金色の猫が、手招きしている。

Crémant d'Alsace Brut Cuvée Manekineko

その名もずばり、マネキネコ。日本に住む親族を訪ねた造り手が土産物屋の店先で招き猫に出会い、「人を招く」という話に惹かれてワイン造りの着想を得たそうな。金色の招き猫。いかにも縁起物ですというこってりとしたエチケットだけれど、ワインそのものはすっきりと上品な辛口スパークリングだ。自然派らしい優しく澄んだ酵母の香りが口いっぱいに広がって、キレの良い後味は上質の辛口日本酒にも似ている。自然派と呼ばれるワインを好んで飲むようになってまだ数年だけれど、透明感のある酵母の香りと旨味は日本酒、特に私が住む福島県で造られる果実味がふくよかな辛口の日本酒に通じるように感じる。縁起の良いボトルは、お祝いにぴったりだ。普段はワインより日本酒を好む人にも喜ばれるギフトになるのではないか。

さて、この金色の招き猫。胡乱な三白眼をこちらに向けた、その無愛想さがいかにも猫らしい。猫は愛想よく笑顔で(猫に笑顔があるのかはさておき)おいでおいでと手招きしない。寝そべったままゆっくりと尻尾をゆらし、「あんたがこっちに来たきゃ来れば? あたしは別にどうでもいいけど」というように無関心な眼差しをちらりと送って寄越すだけ。それでも人はほいほいと猫に吸い寄せられてしまう。首筋や耳の後ろを撫でてやれば、先刻までの無愛想さが一転、喉を鳴らして「もっともっと」とおねだりしてくるのだから、たまらない。

猫派か犬派か。などと無粋な仕分けをするつもりはないけれど、犬より猫が好きだ。呼べば即座にやって来て、「ねえねえ遊んで」と期待に満ちた従順な眼差しでこちらを見上げ尻尾を振る犬にはあまり心を動かされない。それどころか、もったいぶってしばらく待たせるといういじわるがしたくなる。反対に、「なに、あたしを撫でたいの? 好きにしたら」というように冷ややかに見下ろしてくる猫には、いそいそと駆け寄ってしまう。抱っこをすればするりと逃げだし、遊ぼうと誘ってもぷいとそっぽを向く。それなのに読書をすれば本の上に寝転がって邪魔をし、お腹が空けば早朝だろうが容赦なく叩き起こし、寒くなれば布団に潜り込んで主を隅に追いやる。そんな気まぐれな身勝手さが愛おしく、振り回されるのが楽しい。

動物も人も、私は従順ならざる相手を好むようだ。従順なだけでは、やがてただ退屈にしか感じなくなる。歓心を買うかのようにすり寄ってくる相手からは、つい身をかわしたくなってしまう。だけれど、振り回されるのは猫だけにしておこう。猫のように気まぐれな相手に翻弄されるのを甘やかに楽しめる気分には、もうなれない。先の見えない冒険よりも、穏やかで誠実な信頼と落ち着きが欲しい。よそ見をしない相手に安心して全てを委ねてしまいたい。そう願う今の私は、少しだけ成熟に近づけたのかもしれない。

そうこのエッセイを締めくくろうとした私を、もうひとりの自分が「らしくないわね」と鼻で笑った。「成熟だなんだとってつけた様に言っちゃって。あんた、ただ単に疲れてるんじゃないの。ドキドキしてないと生きていけないくせに」と。なるほど、確かに年度末の多忙さに振り回されて今の私は疲れ切っている。そんな今だから人間関係にも地に足のついた落ち着きが欲しいのであって、求めたはずの安定と誠実さはやがて退屈に変わるというのだろうか。私の中の気まぐれな猫は、まだ冒険を続けたいらしい。無い物ねだりはしばらく続きそうだ。

・名称 :クレマン・ダルザス・ブリュット・
     キュヴェ・マネキネコ(ゴールドラベル)
・生産者:ドメーヌ・クレマン・クリュール
・生産地:フランス、アルザス
・ヴィンテージ:N.V.
・品種 :ピノ・ブラン 60%
     ピノ・オーセロワ 40%
・価格 :3,000円ちょっと




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